当時の日本代表選手の中では、背泳ぎの第一人者田中線子選手の両足首がもっとも柔軟性が高く、つま先を伸ばすと足の裏が床に着いてしまった。そこで、測定するときは、台の端にかかとを置いてもらったことを覚えている。その後、旧東ドイツのR.マッテス選手が来日した際、足首を伸ばしてもらったところ、大きな足の裏が床にぴったり着いてしまったのが思い出される。
最近は選手に接する機会が少ないのでよく知らないが、鈴木大地選手や優秀な記録をマークしている女子の背泳ぎの選手の足首の柔軟性は高いのではないだろうか。
とにかく、背泳ぎで良い成績を修めるためには、よく伸びる足首とその足のけりを持続させる大腿の筋持久力が優れていなければならない。それによって、大きな推進力と上半身の安定した姿勢が保持できるのである。
背泳ぎの腕のかきとして、初心者がイメージするのは、からだの横を水平に半円を描くように動かす方法である。しかし、これでは、一かきごとにからだが蛇行してしまうのはすぐわかるはずである。からだが蛇行しないような手のかきは、オーバーハンドでボールを投げるように肘が先行し(図2)、手のひらができるだけからだの近くを通過し最後に返るようにすればよい(図3)。
この手の動きを水中でするときは、頭の先へ伸ばして入水した手でコースロープを引っぱるというやり方によって、手とからだとの相対的位置関係が理解できるはずである(写真2)。30年ぐらい前に、コースローブのすぐ際を泳ぎ、ロープに
図2 プロ5球のピッチャーのオーバーハンドスローのスティックピクチャー(宮下、深代、平野、1986)
図3 背泳ぎの腕のかき(「競泳コーチ教本」より)
写真2 コースロープを片手で握り、引っぱる
写真3 気持ちのよい背浮き、ビート板を脚にかかえればやり易い
手をかけて推進力を得ていた選手が失格となったことがあった。ちょっと見ただけでは区別がつかないくらい上手に手をかけていた。
このような背泳ぎに必要な肘を上手に使った腕のかきは、かなり難しい。だから、歳をとってから習った人ではなかなか身につかない。そのようなときは、反対の腕のリカバリーを肩の進行方向よりも内側、すなわち、からだの反対側までくるように大げさにすると、ローリングがうまくいき、
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